インナーチャイルドワークの一環としての矯正

実は、歯列矯正を始めた。私は36歳、もう良い年なので今更…と思っていたのだけれど、小さい頃から歯並びの悪さがコンプレックスで、思い悩んだ時間を累計するとかなりの長さになるのではないだろうか?


そもそも、私が小さい頃は矯正はある程度の経済力のない家ではできないという認識のものだった。70〜100万円という金額は大金だ。うちの親は兄には矯正治療を受けさせたのだが、私にはその機会がなかった。私は中学生の夏休みに30万円ほどかけてアメリカにホームステイに行ったのだが、親には「あんたはホームステイさせたから矯正は良いよね。」と言われたのである。今思うと金額も違うし納得いかないなぁと思うのだが、経済的に決して豊かではなかった我が家にとって、ホームステイはとても贅沢な投資だと子供心に思っていたし、それ以上をお金がかかることを要求するのは申し訳ないという思いがあったのだ。


そして、30年ほど前は、子供の歯の状態について親の責任が今ほど問われない時代だった。私の歯並びは単に悪いというだけではなくて、その歯並びの悪さゆえに大人の歯が生えてこない、上の犬歯が完全埋伏してしまっている状態だったのだが、親はそのことすら知らない。生えてこられなかった大人の歯の代わりに、私の犬歯部分には乳歯がまだ残っている。歯並びの悪さから顎関節症ぽくなったり、噛み合わせで問題が出て虫歯でない歯の神経がなぜか2本だめになったりした。今のところは虫歯はないが、今残っている乳歯がだめになったらインプラントかブリッジか、どうしたら良いんだろうと常に不安を感じていた。


今の時代に乳歯が抜けた後に大人の歯が正常に生えてこないなんてことがあったら、親は即歯医者に相談に行くレベルだと思うし、実際私も子供の歯並びを気をつけていて、定期的に歯医者に通う習慣をつけている。しかし先に書いた通り私の親は私の大人の歯が生えてきていないということすら知らない。そもそも私がそのことを知ったのはたしか25歳を過ぎて、歯医者から指摘されてからだったくらいなのである。時代が遅れていたのか、親が私に無関心だったのか。両方かもしれない。


私は親との関係があまりよくなかった。心療内科のカウンセリングには10年以上通ったし、最近では自分と親との関わりが子育てに影響していると感じ、インナーチャイルドワークも受けた。そして、このインナーチャイルドワークは私にはとても効果があった。詳細は省くが、過去の自分の声を聞き、一緒に問題への解決策を考えてあげるというようなことをしたのだが、そのことで「子供の頃起きた諸々のことについてはそもそも私が負うべき問題ではなかったんだ」と自責の念から解放されるようになった。


そうしてその過程で「私も本当は矯正したかった」という思いがまたふつふつと込み上げてきたのだ。この歯並びの悪さによって私は自分のことを「育ちが悪い、人に尊重されるに値しない人間」という自己評価を自分に与えていたと思う。


それほどのコンプレックスなので、実のところを言うと、これまでに矯正を考えたことはあった。しかし二十代のころは人生に余裕がなくお金もなかった。三十過ぎて結婚して生活が落ち着き、今通っている歯医者に根本的に歯並びをなおして機能面を改善することは可能か聞いてみたのだ。すると、「上の犬歯の埋伏歯が引っ張って出てくる保証はないし、そのために抜歯もしないといけなくてリスクが高すぎる。僕があなたなら矯正はしない」と言われたことがあり、ああもう遅かったのだ、手遅れだったのだとそのときは大層がっかりしたものだった。


でも、このインナーチャイルドワークを通して、「歯並びについて踏ん切りをつけたい」と強く思うようになった。矯正がしたかった、親は私の健康についてまともに注意を払わなかった、という自分の怒りや悲しみをなだめてあげたかった。


「それなら、別の矯正のお医者さんに相談してみるのはどうだろう?かかりつけの先生は矯正専門でやっているわけではないし、もし別の先生にも無理だと言われたら本当に無理なんだと諦められるのでは?」と私はインナーチャイルドに話し、その日のうちに矯正歯科の無料相談の予約を入れたのだ。過去に心無い歯医者に歯並びの悪さをあげつらわれた経験もあり、傷つけられるのが怖いという思いもあったが、「大人の私が一緒に行ってあげるから、大丈夫だからね」とインナーチャイルドと一緒に歯医者へ向かっていると思うと、頑張らなければという思いがした。


そうして、結論から言うと矯正は試してみる価値のあることだったようだ。埋伏歯が出てくる保証はたしかにないし、時間もかなりかかるというのだが、埋伏歯が牽引して動かなかった場合はまた歯茎を閉じてもとの歯並びに戻るだけだ。抜歯も不要なのでリカバリーはきくとのこと。自分がまともな歯並びになれるなんて、まだ結果はわからないのでそうそう喜んでもいられないのだが、考えただけで夢のようでわくわくする。


そうして、今日初めて埋伏歯の開窓処置を受け、アンカースクリューというインプラントのねじを2つ入れてきたのだが、是非埋伏歯が動いてくれることを願っている。やるだけやって自分を納得させたいのもあるけれど、やはりこの痛みに耐えるのなら見返りがほしいと願ってしまう。


そんなわけで私の矯正治療、どうなるかわからないがまた1つ前に進めた気がする。二十代の頃は矯正するお金がなかった。今の私は、矯正をするお金もあるし、環境も整っている。夫も応援してくれている。私は自分で自分を助けてあげられる力を持つ大人になったのだな、と嬉しく思う。